平穏な日常を望む青年マディは
鍵屋として生計を立てていた。

そんなある晩、
一本の電話がその夜を、
いや彼の人生そのものを
変えてしまう。
ある晩、昼は学生、夜は鍵屋のマディは、クレールから鍵を開けて欲しいという緊急の依頼を受ける。しかし彼女が開けるよう指示した部屋は彼女のものではなく、マディに鍵を開けさせた後、家主不明の家から彼女は一個のバッグを持ち去ったのだった。彼女が持ち去った、そのバッグは目的のためなら手段を選ばない冷酷なマフィア、ヤニックのもので、クレールが去った部屋に押し入ったヤニックは無慈悲にマディを問い詰める。マディが無実を証明し、自身の命を守るための時間は一晩しかない。平凡な夜勤から一転、暴力への残酷な転落が始まる・・・。
フィルムノアールからアクション満載のサバイバルまで、ジャンルを意欲的に融合させた手加減なしのクライムスリラーだ。
ベルギーの新鋭監督ミヒール・ブランシャールによる初の長編監督作品にして、ヨーロッパ映画界に鮮烈な印象を与えた作品が遂に日本上陸。都市の闇を舞台に展開する一夜の逃走劇、そして暴動と現代社会を背景にした人間ドラマを、見事に1本の映画に形作った。
不運にも事件に巻き込まれるマディを演じるのは、短編映画『Soldat noir』 (21)で、アンティル諸島出身の若者ヒューズを演じ、一躍注目若手俳優になったジョナサン・フェルトレ。本作で追い詰められながらも抵抗する青年を圧巻の演技力で表現し、マグリット賞最優秀男優賞にノミネートされた。マディを呼び出した謎めいた依頼人クレールを、『Anissa 2002』(15)の主演Anissa役で、バンクーバー国際映画祭で最優秀演技賞を受賞、ミュージカル『Aladin』(16)ではモリエール賞の最優秀ミュージカル女優賞にノミネートされたフランス出身のマルチ俳優ナターシャ・クリエフが演じる。『死霊館』シリーズの“フレンチー”役で知られ、本作でマグリット賞助演男優賞を受賞したジョナ・ブロケが事件の“裏”に関わる重要人物を熱演し、街を取り仕切る冷酷なギャングを『ゲティ家の身代金』(17)などハリウッド映画にも進出した、フランスを代表する俳優ロマン・デュリスが特別出演で演じる。

その鍵を開けた瞬間、
人生は逃走劇に変わった。
毎夜、日々の生計を立てるため、ブリュッセルで鍵屋として働く青年マディは、ある晩、クレールと名乗る若い女性から部屋の鍵を開けてほしいと依頼され、共にアパートへ向かう。難なくドアを開錠し、部屋で支払いを待つマディに現金を下ろしに行ったクレールから「部屋を出て」と電話が掛かる。そこへ現れた男に突然襲われるマディ。その部屋の住人も、持ち去ったバッグも彼女のものではなく、マフィアのヤニックのものだったのだ。マディは逃走をはかるがヤニックに捕まり、自身の無実を証明するために取引をする羽目になる。マディに与えられた時間は朝までの数時間、それまでにクレールとバッグを見つけなければならない。捜索するブリュッセルの夜の街ではちょうど、“ブラック・ライヴズ・マター”(BLM)のデモが激化しており、警察と市民の衝突がいたるところで起きていた。混乱の中、街は静かに、だが確実に、彼を“犯罪者”に仕立てていく。彼にとって最も危険だったのは、銃でも暴力でもなく、人を信じることだった・・・